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冬の花火
〜第二章〜
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??:「・・・・・・て」

??:「・・・・・・ぶ」

何か聞こえる・・・・・・なんだろう?

??:「・・・・・・きて」

??:「ね・・・・・・うぶ?」

誰だろう?

お母さん?

??:「・・・・・・起きて」

??:「ねぇ・・・だ・・・うぶ?」

うるさいなぁ・・・人が気持ちよく眠っているのに。

??:「起きて!」

??:「ねぇ、大丈夫?」

んもう!

「う〜・・・・・・ん、あと5分。」

適当に返事をしておく。
休みなんだからゆっくり寝かせて欲しい。

??:「・・・・・・・・・・・・。」

ぴとっ。

「きゃあ!」

がばっ!!

夢心地の中、氷を首筋にあてられたような感覚に驚いて私は飛
び起きた。

「もう!何するのよお母さん!!」

「人がせっかく気持ちよく寝・・・てる・・・のに・・・。」

・・・ってあれ?

お母さんじゃない。

ついでに言うと、自分の部屋でもない。

私は外にいる。

そして目の前には見知らぬ男の子が。

男の子:「ごめん、大丈夫?怪我してない?」

男の子が申し訳なさそうな顔で聞いてくる。

「あぁ!!」

思い出した。

外を散歩してたら急に影がさしたので、どうしたんだろうと思
って空を見上げたら、男の子が落ちてきて、ぶつかって・・・

・・・・・・・・・・・・・。

ってことは、私気を失ってたの?

「私、どれくらい気を・・・」

男の子:「10秒くらい。」

全部言い終わらないうちに彼は答えた。

10秒・・・そんなものなのか。
なんか、もっと長い間気を失ってた気がするんだけどなぁ。

それより・・・。

私は、キッと彼を睨みつけた。

そして文句を言おうと口を開いた瞬間・・・

男の子:「ごめんなさい!」

心配そうな面持ちで彼が謝ってきた。

男の子:「本当にごめんなさい!」

男の子:「怪我とかしてない?」

本当に申し訳なさそうに謝る彼を見た瞬間に喉元まで出かかっ
ていた言葉が行き場を失い消えていった。

素直に謝っている相手を怒鳴るのも大人げない。

フルフル・・・すぅーーーーーーはぁーーーーー。

いつものリラックス法で昂ぶりかけた気持ちを落ち着かせる。

男の子:「あっ!駄目だよぅ頭を振っちゃあ。」

彼が慌てて言った。

私が何で?という顔をしていると、彼は更に言葉を続けた。

男の子:「気絶する時に頭を打ってるかもしれないんだから、
むやみに振るのは危険だよぅ。」

言われてみればそうだ。

でも、振ったときに痛みとか特になかったから大丈夫だろう。

男の子:「怪我・・・大丈夫?」

彼の言葉で自分の体を確かめてみる。

手を少し擦りむいたのと、愛用のコートが汚れてしまったこと
以外は特に何もなかった。

「大した怪我はしてないよ。」

そう言って私は、立ち上がり両手をパッと広げてそれをアピー
ルした。

男の子:「怪我してるじゃないか。」

私の手に擦りむいて出来た傷を見つけて彼が言った。

「こんな傷大したことないよ。」

男の子:「駄目だよぅ。」

彼は背負っていたバッグから消毒液とバンソウコウを取り出し
て手の傷の手当てを始めた。

「い、いいよ。」

男の子:「よくない。ちょっとじっとしてて。」

遠慮する私を制して慣れた手つきで手当てをしていく彼。

へぇ〜上手いもんだと感心する。

手当てされている間、彼を観察してみる。

柔らかそうな栗色の髪。
雪のように白い肌。
年は、私と同じくらいだろうか?

グレーのタートルネックにジーンズのパンツ。
その上から肌にも負けない、真っ白い雪のようなコートを羽織
っていた。

彼を雪の精と思えるほどに白く儚げだと感じたのは、この容姿
のせいだったんだと改めて納得した。

男の子:「はい、できた。」

「ありがとう。」

男の子:「お礼なんて・・・僕のせいで怪我したんだから当然
だよ。」

まぁ・・・そりゃあそうなんだけど。

「でも、どうして空から・・・?」

パラシュートもないのにスカイダイビングなんて、ただの自殺
行為だし。

天使でもないのに空から降りて(落ちて?)くるなんて。

男の子:「まぁまぁ、それよりも一緒にどう?」

私の質問をあっさり無視して彼はバッグから2本の牛乳を取り
出し、その内の1本を私に差し出した。

男の子:「お詫び。」

彼は、そう言って屈託のない笑顔を見せる。

私は、釈然としないものを感じながら差し出された牛乳を手に
した。

きゅぽん!

牛乳キャップをとって腰を手にあてるというお決まりのポーズ
で彼はゴクゴクと牛乳を飲んでいる。

男の子:「牛乳・・・嫌いだった?」

なかなか手をつけない私に彼が言った。

私はフルフルと首を横に振り、牛乳のキャップを外した。

きゅぽん!

こくこく・・・。

冷たくて美味しい。

そう言えば、今朝はまだ飲んでなかった。

毎朝、牛乳を飲むのは私の日課となっていた。

「これ、美味しいね。」

男の子:「でしょ?
特別に隣町から取り寄せてる牛乳なんだ。」

そう言って再び見せる彼の屈託のない笑顔を見て、可愛らしい
笑顔だなと思った。

男の子に可愛いなんて言ったら、気を悪くするだろうか?

こくこく・・・

そっか、柊坂には売っていないのか。
ちょっと残念。

こくこく・・・

「ねぇ、なんで空から落ちてきたの?」

もう一度彼に聞いてみる。
今度はちゃんと答えてくれるだろうか?

男の子:「空からぁ?
あはは・・・君にはそう見えたんだ。」

男の子:「僕には翼がないから、それは無理だよ。」

少し寂しそうに彼が言った。

男の子:「空からじゃなくて、そこから。」

そう言って、横の塀を指差す。

塀の向こうには大きな建物があった。

私は、聳え立つそれを見上げる。

『柊坂総合病院』

そっか、ここはちょうど柊坂総合病院の裏手にあたるんだ。

知らないうちにこんな場所まできてたんだ。

柊坂総合病院は、この辺りで一番大きな病院である。
病気や怪我をするといつもこの病院のお世話になる。

男の子:「その塀から飛び降りたんだよ。
急いでたからちゃんと下を確認しなかったんだ。」

男の子:「で、飛び降りたら下に君がいて現在に至ってるって
わけ。」

こくこく・・・

「ふぅ〜ん、なんでそんな所から?」

しかも、急いでた?

看護婦:「あぁ〜〜〜〜〜!!!」

突然塀の向こう側から女性の叫び声が聞こえた。

こんな朝早くからいったいどうしたんだろう?
おそらく、さっきの声はここの看護婦さんだろうけど・・・。
何か事件かな?

そんなことを考えながら残りの牛乳を口に運ぶ。

こくこく・・・

看護婦:「ま、また、牛乳泥棒だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ごくん。

病院の塀から飛び降りてきた。

しかも、慌てて。

そして・・・牛乳。

「ま、まさか・・・」

彼はニッコリ微笑んで言った。

男の子:「これで、共犯だね。」

・・・と。

看護婦:「犯人は、そう遠くへは行ってないはず。
今日こそ捕まえてやる。」

私が唖然としていると塀の向こうから看護婦のそんな声が聞こ
えてきた。

マズイ。

非常にマズイ。

このままでは、私まで犯人にされてしまう。

故意でないにしろ牛乳を飲んでしまったのだ、言い訳は聞いて
もらえないだろう。

どうしよう。

逃げる?

それとも・・・

男の子:「もう逃げる時間ないね。」

あっけらかんと彼は言ってのける。

「だ、誰のせいよ!!」

思わず怒鳴る。

男の子:「そんな声出したら見つけてくださいって言ってるの
と同じだよ?」

彼は冷静に声をひそめて話す。

ぐっ、それもそうだ。

それよりも今は、この事態をどうやって切り抜けるかの方が大
切だ。

そうこうしているうちに看護婦の雪を踏みしめる音が近付いて
来る。

どうする?
どうする?

男の子:「僕に任せて。」

慌てふためいている私に彼は、そっと言った。

次の瞬間。

彼の純白のコートがふわりと舞い、私の体はそれに包まれた。

彼に抱きしめられたのだ。

「な、なっ・・・ななっ・・・」

私は更にパニックに陥り叫び声をあげそうになる。

男の子:「落ち着いて。」

お、落ち着けですって?

見ず知らずの男の子に急に抱きしめられたのだ。
これで落ち着いていられるわけがない!

慌てて体を離そうとする。

男の子:「待って。
このままでいればやりすごせるから、もう少し我慢して。」

何を・・・

彼は静かに続ける。

男の子:「こうしていれば看護婦にはアベックがいちゃついて
るようにしか見えない。
そして、まさかアベックが牛乳泥棒だとは思わない。」

い、言われて見ればそうかもしれない。

しかし、だからと言ってこの状況に納得できるはずもない。

無常にも新雪を踏みしめる看護婦の足音はドンドン近付いて来
る。

私は仕方なくこの状況に甘んじる覚悟を決めた。

変なとこ触ったら大声あげてぶっ叩いてやる。

抵抗を止めた私の耳元で彼が囁いた。

男の子:「ごめんね。」


・・・・・・・・・・・・。

まだ、数秒しか経っていないはずなのに時間がすごく長く感じ
る。

抵抗をやめたものの私の体は緊張しっぱなしだった。
(心もだけど・・・)
今まで男の子と付き合った経験のない私は、こうやって抱きし
められること自体が初めてだった。

自分でもすごくドキドキしているのがわかる。

きっと今の私の顔は紅葉のように紅く、表情は強張っていて端
からみればすごく滑稽なのだろうと思う。

早鐘のように鳴り響く鼓動が目の前の彼にも聞こえてしまうの
ではないだろうかと思えるほどに私は緊張していたのだ。

うぅ・・・このままだと、どうにかなっちゃう。

男の子:「・・・緊張してるんだ。」

静かに彼が言葉を紡ぐ。

私はと言えば緊張がピークに達していて固まったままだ。

男の子:「僕と同じだね。」

えっ? 何が?

男の子:「僕の鼓動聞こえる?」

私は耳を澄まして彼の鼓動を聞いてみる。

彼の鼓動も私のそれと同じだった。

彼も緊張してるんだ・・・

そう思うと心なしか緊張がほどけていった。

ほんの少しだけど・・・

きゅっきゅっと雪を踏みしめる音が近づいてくる。

看護婦:「そこぉ!!」

後ろの方で看護婦の声がした。

強引に共犯に仕立て上げられた私にも緊張が走る。

看護婦:「ちっ、カップルか。
朝っぱらからいちゃいちゃしやがって。」
吐き捨てるような台詞が聞こえてくる。

なんか、ちょっとガラの悪い看護婦だなぁ。
そんなことを思う。

看護婦:「逃げ足の速い奴だ。」

看護婦はそう言い残して病院へ戻っていった。

「はぁ〜〜〜〜。」

私は大きく安堵のため息を漏らした。

男の子:「行ったみたいだね。」

男の子:「良かったね、君の人生に汚点が残らずに済んで。」

私はキッと彼を睨んだ。

「誰のせいよ!!
そもそも、あんたに出会ったことが人生の汚点よ!」

男の子:「そっか、君の人生に僕が刻まれるなんて光栄だな。」

悪びれる様子もなく、柔らかな笑顔で彼が言った。

男の子:「いやぁ、でも緊張したね。
バレるんじゃないかと思ってドキドキしたよ。」

「べ、別に」

男の子:「もう、君も緊張してたじゃないかぁ。」

『私は、別の理由で緊張してたのよ。』

でも、その言葉は飲み込んだ。
なんか、弱みを見せてるみたいで嫌だったから。

さくっ、さくっ・・・

私は、彼に背を向けて歩き出す。

男の子:「あれ?もう行っちゃうんだ。」

私は何も答えない。

さくっ、さくっ・・・

男の子:「・・・・・・・・・・・・。」

男の子:「また、逢えるといいね。」

『まっぴらごめんよ!!』

心の中で思い切り叫んだ。


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