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冬の花火
〜第三章〜
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「うぅ・・・どうしよう。」
昨日に引き続き朝早くに目が覚めた私は、今日も散歩に出かけ
ようか悩んでいた。
昨夜も降ったのであろう、今日も外は一面真っ白だった。
本当なら悩むまでもなく散歩に出かけるところなのだが、もう
少し惰眠を貪りたい気もする。
せっかくの冬休みなんだから。
でも・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし。」
しばらく考えてやっぱり散歩に行くことにした。
こんな真っ白な世界を散策しないなんて勿体無い。
そう思ったからだ。
さくっ、さくっ・・・
やっぱり散歩に出て正解だった。
新雪の上を歩くのは、なんとも気持ちがいい。
「ん〜やっぱり散歩に出て良かった。」
思わずそんな言葉が漏れるほどに。
しかし、昨日は酷い目に遭った。
柊坂総合病院の裏手に差し掛かった時、昨日の忌まわしい記憶が
よみがえってきた。
柊坂総合病院の裏手の道は私の通学路でもあるのだ。
「あそこを通って学校に行くのも考えものだなぁ。」
そう思いながらも今日も通ってるんだけど。
男の子:「やぁ、また会ったね。」
ふと声のするほうに目をやる。
そこには、昨日の牛乳泥棒が昨日と同じく真っ白なコートを纏っ
て立っていた。
さくっ、さくっ、さくっ・・・
私は無視を決め込むことにした。
さくっ、さくっ、さくっ・・・
何事もなく横を通り過ぎていく。
まるで、そこに誰もいないかのように。
男の子:「うわぁ〜、無視なんて酷いなぁ。」
さくっ、さくっ、さくっ・・・
そう言って男の子は付いてくる。
何こいつ?
私は、走り出した。
男の子:「ま、待ってよぅ。」
後ろの方で男の子の声が聞こえたけど構わず走りつづけた。
ちらりと後ろを振り返る。
歩みを速めてはいるが、走る気配はない。
助かった。
自慢じゃないけど私は鈍足なのだ。
必死で走っても小学生の低学年に負けてしまうほどに。
男の子の足で走られたら、間違いなくつかまってしまうだろう。
どさっ!!
あっ、男の子がこけた。
走ってもいないのにどうしてこけるのだろう。
私は走るのを止め彼の様子を見る。
動かない・・・どうしたのだろう?
私は少し心配になる。
「・・・・・・・・・・・・。」
明らかに男の子の様子がおかしい。
立ち上がる気配がない。
私は、結局心配になり男の子の元に駆け寄った。
「ち、ちょっと、大丈夫?どうしたの?」
男の子:「い・・・痛い・・・冷たい・・・」
蚊の鳴くような声がした。
とりあえずは生きているようだ。
「ほら、さっさと起きなさいよ。」
私はそう言って男の子の手を持って引っぱりあげる。
男の子の体は想像以上に軽かった。
そして私に手助けを受けながらも自分で立ち上がった。
男の子:「いたた・・・このまま死んじゃうんじゃないかと思
ったよ。」
「大袈裟よ。だいたいどうして走ってもないのに転ぶのよ。」
男の子:「大袈裟じゃないよぅ。本当にそう思ったんだから。
それに僕、運動が苦手なんだよ。」
男の子は、自分の服についた雪を丁寧に払い落としながら答え
た。
あれは運動が苦手とかそういうレベルの話じゃないと思うんだ
けど。
男の子:「それにしても酷いよぅ、無視するし走って行っちゃ
うし・・・・・・。」
男の子が捨て犬のような目で私を見る。
「あんな酷い目に遭わされたんだから逃げもするわよ。」
男の子:「・・・・・・・・?」
最初なんのことだか解っていない様子だったが、しばらくして
『あぁ・・・』と言って、昨日のことを思い出したようだ。
男の子:「あぁ、昨日のことかぁ。
うん、あれは悪いことしたなって思うよ。」
男の子:「だから、君にも謝ろうと思って待ってたんだよ。
それなのに・・・・・・。」
男の子は、また捨て犬のような目で私を見た。
そっかぁ、謝ろうとして待ってたのか。
「来るか、来ないかも解らないのに?」
男の子:「あ、それは考えてなかったよ。」
なんとも間抜けな話だ。
本当に来なかったらどうするつもりだったのだろう。
男の子:「でも、来てくれたから。」
そう言って、すごく柔らかい笑顔を浮かべた。
はっ!!
不覚にも私はその笑顔を見て、またしても可愛いと思ってしま
った。
だめだめ、こいつは牛乳泥棒なんだから。
この笑顔は罠よ。罠。
ん!?『君にも』?
「『君にも』って、他にも誰かに謝ったの?」
男の子:「昨日の看護婦さん。」
へぇ〜、昨日の看護婦さんにも謝ったのか。
根っからの悪人でもないってことなのかな。
もっとも、それが本当ならの話だけど。
男の子:「昨日は迷惑かけてごめんなさい。」
そう言って男の子は私にペコリと頭を下げた。
ふぅ〜・・・。
看護婦さんに謝ったのが本当かどうかは解らないけど、私には
素直に謝ってるんだから許してあげてもいいかな。
「もう絶対、昨日みたいに人の物を盗ったりしないって約束で
きる?」
男の子:「うん。もう絶対にしないよ。」
男の子は真摯な眼差しで答えた。
ま、いっか。
「わかった。
昨日のことは水に流すことにする。」
男の子:「ありがとう。」
男の子:「あ、そうだ。
自己紹介がまだだったね。
僕は藤宮 冬弥(ふじみや とうや)。よろしく。」
男の子・・・基、藤宮 冬弥はそう言って柔なかな笑顔と共に
手を差し出した。
握手を求めてるんだろうな。きっと。
それにしても『藤宮 冬弥』って私と一字しか名前が違わない
なんて、なんて奇遇なんだろう。
冬弥:「・・・君の名前は?」
「・・・・・・・・・・・・。」
さて、どうしたものか。
正直に答えていいものだろうか。
藤宮 冬弥を見る。
相変わらず柔らかな微笑で手を差し伸べたまま私の行動を待っ
ている。
ま、いっか。
彼の素直な笑顔を見て私はそう思った。
「私は藤宮 冬子(ふじみや とうこ)。」
冬弥:「どんな字書くの?」
「藤の花の『藤』にお宮参りの『宮』。
それに冬の子で冬子。」
冬弥:「へぇ〜僕と一字違いなんだ。
『藤宮 冬』まで一緒で『や』は弥生の『弥』で冬弥って言う
んだ。」
漢字まで一字違いとは、驚いた。
冬弥:「ねぇ。」
「なぁに?」
冬弥:「腕、疲れるんだけど。」
そう言う彼の腕は、握手を求めた時のままだった。
会話の間も一度も下ろさなかったのだろう。
私は少し可愛そうになり、彼の手をそっと握り返した。
「よろしく。」
冬弥:「うん、よろしく冬子ちゃん。」
ぞわわわゎゎ・・・・
「や、止めてくれないその呼び方。
なんか寒気がする。」
ちゃん付けでなんて呼ばれなれてないせいか、なんとも言えな
い違和感を感じる。
冬弥:「じゃあ、なんて呼べばいいの?
苗字じゃ違和感あるし・・・・・。」
「『冬子』でいいわよ。みんなそう呼んでるし。」
冬弥:「じゃあ、僕も『冬弥』でいいから。」
「じゃ、私はこれで。」
そう言って私は踵を返した。
冬弥:「あ、待って!」
「何?」
冬弥:「昨日もそうだったけど、こんな朝早くから何処に行く
の?」
「何処って、別に行き先なんて決めてないよ。
ただ、ブラブラと散歩してるだけだから。」
冬弥:「散歩かぁ・・・一緒に行ってもいい?」
「へっ!?」
冬弥:「駄目かな?」
そう言って冬弥は、柔らかな笑顔を浮かべた。
うぅ・・・この笑顔に弱いのよね。
はぁ〜と軽く溜息をついてから冬弥を見て言った。
「いいよ。じゃ、一緒に行こう。」
私たち二人は並んで朝の柊坂を歩き出した。
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