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冬の花火
〜第四章〜
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冬弥:「ねぇねぇ、アレ何?」

「何って、書いてあるでしょう『柊坂駅』って。」

冬弥:「ほらほら冬子ちゃん、電車だよ。
すごいねぇ走ってるよ。早いなぁ・・・。」

ぞわわゎゎゎ・・・

「だ・か・ら、その『冬子ちゃん』って止めてって。
『冬子』でいいよ『冬子』で。」

冬弥:「うん、わかったよ冬子ちゃん。」

はぁ〜・・・・

ま、いっか。

「それに、さっきから何をはしゃいでるの?
電車なんて珍しくもなんともないじゃない。」

冬弥は、さっきから見るもの聞くものに対していちいち驚いた
り、喜んだりしている。

初めのうちは私もいちいち応対してたけど、こう何度も何度も
聞かれると正直疲れる。

冬弥:「だって、僕走ってる電車を生で見るの初めてだから。
興奮しちゃって。テレビとかだと見たことあるんだけどね。」

「初めて見るって・・・出かける時とかどうしてるの?」

冬弥:「あんまり、出かけたことないんだ。
それに出かける時は、いつも車だったし。」

少し寂しそうに冬弥は言った。

「冬弥って箱入り息子?お坊ちゃんなの?」

冬弥:「お坊ちゃんって・・・違うよぅ。
まぁ、箱入りと言えば箱入りかもしれないけどね。」

「やっぱりお坊ちゃんじゃないの。」

冬弥:「あははは・・・本当に違うって。」

「にゃ〜〜」

冬弥:「あっ、見て見て冬子ちゃん。
猫だよ。かわいいねぇ。」

冬弥は、猫を見て満面の笑みを浮かべている。

「かわいいねぇ。」

そう言いながら私は猫ではなく冬弥を見ていた。

やっぱり冬弥の顔って女の子顔だなぁ。
肌の色も白いし、可愛い。 こういう顔が私の好みなんだろうか?

柔らかそうな肌。
さわってみたいなぁ。

はっ!

私は何を考えてるんだ?
なんか思考が変な方向にいってる。

フルフル・・・すぅーーーーーーはぁーーーーー。

いつものリラックス法で暴走しかけた思考を落ち着かせる。
あぶない、あぶない。

ぐぅ〜
小さくお腹がなった。

私は、慌てて冬弥を見る。
冬弥は無邪気に猫とじゃれあっている。
どうやら、私のお腹の音は聞かれていないらしい。

恥ずかしい。まさかお腹がなるとは思ってなかった。

「ねぇ、冬弥。」

私は、徐に振り返って言った。

冬弥:「なに?冬子ちゃん。」

「お腹すかない?」

私は朝ご飯も食べずに散歩に出かけたものだから正直ペコペコ
だった。

「近くに美味しいパン屋さんがあるの。いかない?」

冬弥:「・・・確かにお腹はすいたけど。
あんまり、外で食べちゃ駄目だって言われてるから。」

「かぁ〜・・駄目駄目、これだからお坊ちゃんは。
何事も社会勉強よ。社会勉強。」

「さぁ、行くわよ!」

冬弥:「ご、強引だよぅ。」

渋る冬弥に構わず私はパン屋へと歩き出した。

冬弥:「ま、待ってよぅ。」

;******

カラン・・・カラン・・・

パン屋の入り口をくぐり中に入る。

冬弥:「わぁ〜凄いねぇ。色々なパンがあるんだぁ。
それに、とってもいい匂いだね。」

なんか、本当にパン屋にくるのが初めてっぽい。

冬弥の反応を見て私は思った。
お坊ちゃんて本当にいるんだなぁ・・・と。

「わ、わぁーーーちょっと待って冬弥!」

冬弥は、今まさにパンを手で鷲づかみにするところだった。

冬弥:「なぁに、冬子ちゃん。」

はぁ〜・・・やれやれ。

「パンはね手で直接触ったら駄目なの。」

冬弥:「どうして?」

「もし、他のが欲しくなって先に選んだパンがいらなくなった
からって戻すってのを手でやってたら不衛生でしょ。」

「だから、このハサミで欲しいパンを取って、このトレーに乗
せるの。そして、会計をあそこのレジでするの。
わかった?」

冬弥:「あぁ、なるほど。わかったよ。」

そう言って冬弥は、にっこりと笑った。

;******
冬弥:「ふぅ〜美味しかったね。」

「でしょ?」

自分のお気に入りの店を紹介して相手にも気に入ってもらえる
というのは結構嬉しいものだ。

冬弥:「あんまり美味しいんで、食べ過ぎちゃった。」

「あれで?」

冬弥は、大きいとは言えない調理パンを二つほど食べただけで
量的には女の子である私と大差なかった。

冬弥:「僕いつもあんまり食べないからね。
よく食が細いって言われるよ。」

「食が細いにも程があるわよ。
男の子なんだからもっとたくさん食べないと。」

冬弥:「はは・・・。 それに誰かと食べるなんて、すごく久しぶりだったから、嬉し
かったよ。」

「いつも、一人で食事してるの?」

冬弥:「・・・うん。」

そっか・・・・・・

きっと両親は外国とか飛び回ってて忙しいだろうな。
お坊ちゃんって言うのも結構寂しいものなのかもしれない。
そんなことをぼぅっと思った。

朝食も食べ終わり、しばらく休んでると街が少しずつざわめき
出した。

会社へ出かける人、学校へ急ぐ学生、遊びに出かける男女。
そんな人々で少しずつ景色がうまっていく。

冬弥:「さて、そろそろ僕は帰るよ。」

「そうね、私もそうするわ。」

冬弥:「楽しかった。ありがとう冬子ちゃん。」

「いえいえ、どういたしまして。」

『冬子ちゃん』にもいい加減慣れた私は、少し芝居がかった口
調で応えた。

『それじゃあ』と、冬弥に背中を向けようとした時だった。

冬弥:「明日も会える?」

不意の冬弥の問いかけに一瞬言ってる意味がわからなくなる。

冬弥:「明日も散歩するなら、また一緒にどうかなと思って。
まぁ、無理にとは言わないけど。」

そして、柔らかな笑顔をうかべる。

私の苦手な冬弥スマイルを。

冬弥:「もし明日も散歩に行くなら、今日と同じ時間に同じ場
所で。」

それだけ言うと、私の答えも聞かずに冬弥は行ってしまった。

;******

次の朝・・・

冬弥:「おはよう、冬子ちゃん。」

「『おはよう』じゃない!」

冬弥:「どうしたの?」

「あんたねぇ、私の答えも聞かずに昨日帰っちゃうから。
気になって来たのよ。」

冬弥:「あぁ、そうなんだ。優しいな冬子ちゃんは。」

そう言って、お決まりの冬弥スマイル。

うぅ・・・この笑顔は反則だ。

冬弥:「・・・ごめんね、冬子ちゃん。」

少し申し訳なさそうな顔で冬弥が言った。

「いいよ、もう。」

「じゃ、行くわよ。」

冬弥:「へ!?」

「さ・ん・ぽ、行くんでしょ?」

冬弥:「いいの?」

「私も散歩好きだしね。」

そう言って、冬弥を見て微笑んだ。

「行こ。」

冬弥:「うん。」

冬弥も嬉しそうに微笑む。

本日も柊坂は晴天。
街は一面雪に覆われ白く輝いていた。


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