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冬の花火
〜第五章〜
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あれから、冬弥との朝の散歩が日課となっていた。

毎朝、初めて出会った柊坂総合病院の裏手で待ち合わせて、朝
の街を歩く。

見るもの聞くものの全てが冬弥にとっては新鮮であるようだっ
た。散歩の度に驚いたり喜んだり。

そして、自分がまるで幸せの真中にいるかのような笑顔をいつ
も浮かべ、絶やさなかった。

私は、そんな冬弥といるのが大好きになっていた。

何時のころからか、私の中に静かに降り積もっていった黒い雪
が冬弥の暖かな笑顔で溶けていく。

冬弥の笑顔は、陽だまりにいるような安らかな気持ちに私をさ
せてくれた。

でも、冬弥はどうなんだろう?

私が冬弥といる時に感じているような気持ちを冬弥も感じてく
れているんだろうか・・・

;******

冬弥:「ほらほら、冬子ちゃんアレ見てよ凄いねぇ。」

冬弥は、駅前の広場に飾り立てられて大きなクリスマスツリー
を見て感嘆していた。

私も冬弥と並んでそれを見上げる。

「本当、大きいよね。」

毎年クリスマスが近づくと、ここ柊坂駅前の広場には大きなツ
リーが飾られる。
それは、ちょっとした街の名物だった。

「クリスマスに一緒に見れるといいね。」

思わずそんな言葉が漏れた。

言った後で少し恥ずかしくなった。
顔が火照るのを感じる。

冬弥:「・・・うん、そうだね。」

冬弥は、そんな私の言葉に優しく応えてくれた。

でも、冬弥の瞳はどこか寂しげで・・・。

きっと、それは喧騒に包まれる前の静かな朝の風景が私にそう
思わせたのだろう。

次の瞬間、いつもの笑顔で冬弥は『行こう。』と言って、歩き
出した。

;******

気持ちいい青空のした、雪をきゅっきゅっと踏みしめながら歩
く。たまに吹く風が粉雪を舞い上がらせ、それに陽の光が反射
しキラキラと輝きながら私たちの周りを踊るように舞う。

それは、まるで雪の精が踊っているように見えた。

冬弥は、キラキラと輝きながら舞い踊る雪の精に囲まれて幸せ
そうに柔らかい笑顔を浮かべている。

「いっつも幸せそうに笑うね冬弥は。」

冬弥:「だって、幸せだからね。」

冬弥は、あっさりと言ってのけた。

「いいなぁ。」

冬弥:「冬子ちゃんは、幸せじゃないの?」

「う〜ん、特別不幸ってわけじゃないんだけど、幸せかって聞
かれたらそれも違うような気がする。」

「はぁー・・・幸せってどこにあるんだろうねぇ。」

青く透き通った空を仰ぎ見て、どこにあるのかわからない幸せ
に思いを馳せる。

冬弥:「そこらじゅうに溢れてるじゃない。」

そんな私に冬弥は、またまたあっさりと、そして事も無げに言
ってのけた。

「へっ?どこに・・・」

本当にそこらじゅうに幸せが溢れているのなら私も肖りたいも
のだ。

冬弥:「例えば、この青空を見て気持ちいいと感じることや、
陽の光に照らされてキラキラと舞う雪を見て綺麗だと感じる
こと。」

冬弥:「焼きたてのパンを食べて美味しいと感じたり、面白
いTV番組を見て笑ったり、感動したりできること。」

冬弥:「そして、大好きな人と同じ時間を過ごせること。」

冬弥:「それら全部が幸せだと僕は思うよ。」

冬弥:「だから、幸せを探す必要なんてないと思う。
だって、幸せはどこにでも溢れてるんだから。
ただ、それを感じればいいだけ。」

冬弥:「当然、生きていれば辛いことや悲しいこと、やるせな
いことなんていくらでもあるよ。
でも、それはイコール不幸じゃないと思うんだ。」

冬弥:「不幸っていうのは、そういうことが起こった時に心が
周りにある幸せたちを感じられなくなることだと思うんだ。」

冬弥:「僕は、空の青を見て気持ちいいと思うし、キラキラ舞
う雪を見て綺麗だと感じる。
ご飯も美味しいしね。」

冬弥:「それに、冬子ちゃんといる時間も楽しい。
僕はそれを確かに感じることができてる。」

冬弥:「だから、幸せだよ。」

そう言って、満面の笑みを浮かべる。

凄い。

私は、素直にそう思った。

幸せが周りに溢れてるだなんて考えたこともなかった。
それは、いつも見えなくて遠くにあるものだと思ってた。
人は皆それを探しながら生きてるんだと思ってた。

自分が今、幸せの中にいるなんて思いもしなかった。

冬弥が紡いだ言の葉が、すぅっと私の心に染み込んでいく。
その瞬間、私は幸せなんだということを生まれて初めて実感で
きた気がした。

「冬弥は凄いね。いや、強いのかな?
そんな風に思える人間はなかなかいないと思うよ。」

冬弥:「僕は、凄くも強くもないよ。
どうしようもないくらい弱い人間だよ。」

「少なくとも私は冬弥みたいに考えたことないもの。
その考えに至れるってこと自体が凄いと思う。」

冬弥:「僕も少し前までは冬子ちゃんと同じだったよ。
でも、ある時に知り合った人が教えてくれたんだ。
幸せってのは、けして遠い存在じゃないって。」

冬弥:「それは、いつもすぐ身近にあって僕たちが気づいてく
れるのを待ってるんだって。
僕たちがほんの少し心の視線をそこに向けるだけで誰でも幸せ
になれるんだってね。」

「凄いね、その人も。
その人もきっと冬弥みたいに幸せな笑顔を浮かべてるんだろう
ね。」

「その人とは今も?」

冬弥は静かに頭を振った。
そして・・・・・・

冬弥:「・・・・・・もう、この世にいない。」

えっ・・・・・・この世にいないって・・・死んだってこと?

「ご、ごめん。」

謝ったところで何がどうなるわけではないけれど、咄嗟にその
言葉が口を吐いていた。

冬弥は優しい顔のまま、もう一度頭を振った。

冬弥:「その人はね僕と出会った時には自分の死期が近いこと
を知ってたんだ。
既に・・・死を覚悟してたんだ。」

冬弥:「その上でね僕にそれを教えてくれた。」

そんな人が本当にいるんだ。
自分の死期が近いことを知りながら尚そんな前向きな考えがで
きるだなんて・・・

自分の死期を知った時の気持ちなんて容易に私に想像できるは
ずもなかった。。

でも、きっと恐かったはずだ・・・。

冬弥:「僕の恩人だよ。感謝してもし足りないくらいのね。」

冬弥:「本当に強い人ってのは、その人のことを言うんだ。
僕は、その人に救われたただの弱い人間だよ。」

そう言って自嘲気味に冬弥が笑う。
悔しさとか寂しさとか、そういうのを綯交ぜにしたような複雑
な表情。

初めて見る冬弥のそんな表情に居た堪れなくなった。

「そんなことないよ冬弥。」

私はいつになく真摯な眼差しを冬弥に向けて言った。

「だって、私は冬弥のその言葉で気持ちが晴れたもの。」

「それに、それを教えてもらったからって体現できる人間は少
ないよ。」

「だから、冬弥は自分で言うほど弱い人間じゃない。
自信持ちなよ・・・ね。」

冬弥:「ありがとう冬子ちゃん。」

そう言って、とびきりの冬弥スマイルを浮かべる。

くぅ〜この笑顔に弱いのよね私。

キラキラと舞う雪の中に浮かぶその笑顔は優しくて暖かくて。

やっぱり冬弥にあんな表情は似合わない。

冬弥にはいつも笑顔でいて欲しい。

どこか儚げな感じの残る笑顔を見て心からそう思った。


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