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冬の花火
〜最終章〜
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白く重い扉をくぐり、いつものように病室の前に立って静かに
ドアをノックする。

コンコン・・・

その音は静かな病棟に吸い込まれて消える。

ガチャ・・・

病室のドアノブを回して中に入る。

主のいない病室へ。

無機質で白く静かな部屋。

『生きる』には、寂しすぎる部屋。

冬弥は、この部屋でいったいどれほどの夜を過ごし、どれだけ
の涙を流したのだろう。

ぬくもりの消えたベットに腰をかけるとギシっという音が静か
な病室に響いた。

窓の外に目をやると真っ白な世界が広がっている。
全ての音を吸い込んだように静まり返ったその世界は、この悲
しみまでは吸い取ってはくれない。

もし、この世界に神様がいるのなら冬弥を救うべきだ。
冬弥は救われるべき人間だ。
けして、その命を散らせるべきではない。

冬弥が昏睡状態に陥ってから私は生まれて初めて本気で神様に
お祈りをした。

どうか冬弥を救ってあげてくださいと。

ご都合主義と言われようが私にできることはそれしかなかった
から。

だから心の底から祈った。

ガチャ・・・

ドアが静かに開き、入ってきたのは冬弥のお母さんだった。

冬弥の母:「こんにちは。
今日も来てくれてたのね冬子ちゃん。」

そう言って彼女は、やつれた顔で笑った。

「約束したんです。
最期まで一緒にいるって。」

冬弥の母:「ありがとう冬子ちゃん。」

冬弥が倒れた日に初めて会った冬弥の母親が、何度目になるか
わからないお礼と一緒に頭を下げる。

私は、『気にしないでください。』と遠慮がちに言って、また
窓の外に目をやった。

冬弥の母:「冬子ちゃんとは、あの晩に初めて会ったのになん
だか昔から知ってるような気がするのは冬弥から話を聞いてい
たからかしら。」

少し遠慮気味に冬弥の母親が言葉を紡ぎだした。

冬弥の母:「あの子がホスピスに入ったのは、今年の春からな
んだけど。最初は本当に元気がなくて笑顔なんて見せなかった
の。」

冬弥の母:「医者から今年いっぱいの命だと言われて笑顔でい
られる人間なんていないんでしょうけどね。」

私は、ただ黙って窓の外を眺めながら話に耳を傾けていた。

冬弥の母:「そんなある日に冬弥が言ったの『おもしろい女の
子を見たよ。』って。
本当に久しぶりの笑顔で。」

冬弥の母:「なんでも、春だって言うのにその女の子は大きな
声で『赤鼻のトナカイ』を歌ってたんだって言うの。
それも凄く楽しそうに。」

春にクリスマスソングなんて変わった人間もいるものだ。
きっと陽気のせいだったんだろうけどイタイ人間であることに
は変わりはない。

冬弥の母:「それからは、その女の子の話が多くなってね。
冬弥も昔みたいに笑えるようになってたの。」

冬弥の母:「そして2ヶ月ほど経った日に嬉しそうに少し頬を
赤くして冬弥が言ったのね。
『あの女の子の名前がわかったんだ。』って。」

冬弥の母:「なんでも、その女の子の友達がその子の名前を大
声で呼んでたのが聞こえたらしいの。」

冬弥の母:「あの時の冬弥の顔は忘れられないわ。
きっとあれは心からの笑顔だったから。
本当に嬉そうに言ったの・・・」

冬弥:『母さん。あの女の子の名前がわかったんだ。
トウコちゃんって言うみたいだよ。
友達になれたらいいなぁ・・・』

えっ?

私は冬弥の母親に向き直った。

「それって・・・」

冬弥の母:「冬子ちゃんのことよ。」

私は三度窓の外に目をやった。

そして初めて知った。

冬弥の病室の窓から私がいつも通学路として通っている道が見
えることを。

そういえば、入学したての頃あまりの陽気に気持ちよくなって
大好きな『赤鼻のトナカイ』を熱唱したことがあったっけ。

まさか、あれを冬弥に聞かれてたなんて。
いや、冬弥だけじゃなくきっと近所の人にも丸聞こえだったに
違いない。

イタイ人間は私自身だったわけだ。

それに、私の名前を恥ずかしげもなく大声で呼ぶ友人には心当
たりが一人しかいない。
松平 明美である。

冬弥の母:「それからのあの子は本当にいきいきとしてた。
『トウコちゃんが笑ってた。いいことあったのかなぁ。』とか
、『今日は元気がなかったけど、どうしたんだろう。』とか、
毎日のように冬子ちゃんの話を聞かされたものよ。」

そう言って笑った彼女の笑顔にぎこちなさはなかった。
彼女の辛そうな笑顔しか見たことがなかった私は少し嬉しくな
った。

冬弥の母:「だけどね、三ヶ月くらい前から冬弥の口から出る
冬子ちゃんの話はいつも同じだったわ。」

冬弥:『なんか最近トウコちゃん元気ないんだ。
いつもイライラしてる感じだし・・・。
何かあったのかなぁ。』

それは、私が私自身を持て余していた時期と一致している。
いつも何かにイライラしてた時期と。

冬弥の母:「そして一月前に突然冬弥が言ったの。」

冬弥:『僕に残されている時間は僅かだけど、この時間を彼女
のために使いたいんだ。』

冬弥:『僕に何ができるか解らないし、何もできないかもしれ
ない。それでもこのまま黙って死を迎えるなんてしたくない。
僕に笑顔を思い出させてくれた彼女の力になりたいんだ。』

冬弥:『死んでいないってことと生きていることは同じじゃな
いよね。
僕は、最期に生きてみたいんだ。』

冬弥:『父さん、母さん。最期の我侭です。
どうか、許してください。』

冬弥の母:「そう言って深々と頭を下げたの。
私達はそんなあの子を止めることなんてできなかった。」

冬弥の母:「だって、本当にあの時の目は生きている目だった
から。」

あの日、冬弥と出会ったのは偶然じゃなかったんだ。

あの日、冬弥は残りの時間を私のために使うことを心に決めて
私の目の前に舞い降りたんだ。

こんな私のために・・・

私の目から止め処なく涙が溢れる。
嗚咽が漏れる。胸が苦しい。

冬弥、冬弥、冬弥、冬弥ぁ・・・

冬弥の母:「本当にありがとう冬子ちゃん。」

冬弥の病室に私の泣き声が響いた。


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その夜、夕食を摂り終えた私は自室に戻り、あの日できなかっ
た花火を手にとって眺めていた。

「冬弥、楽しみにしたなぁ・・・」

トゥルルルル・・・
トゥルルルル・・・
トゥルルルル・・・

階下で電話が鳴った。
どうせ母さんがとるだろう。

そう思い、私はかまわずに花火を眺め続けた。

母親:「はい、藤宮でございます。」

私の思惑通りに母親が電話の応対にでた。

母親:「はい、娘はおりますが・・・はい・・・はい・・・
わかりました。
しばらくお待ちください。」

母親:「冬子ぉ、電話よ。」

私に?
誰だろう明美かな?

私は階段を駆け下りて受話器を手にした。

「なぁに明美?」

『・・・こんばんは、冬子ちゃん。藤宮 冬弥の母です。』

「す、すいません。友人と勘違いしてしまって。」

まさか、冬弥の母親から電話がくるなんて思ってなかった私は
相手を明美だと決め込んで応対してしまった。

『いいのよ。それより冬弥が目を覚ましました。』

「えっ!?」

受話器を握る手に力がこもる。

『冬弥が冬子ちゃんに会いたがってるの。
きっと、これが最期になると思うの。
こんな夜に非常識だとは思うんだけど、お願いできないかしら
冬子ちゃん。』

受話器の向こうですすり泣く声が微かに聞こえる。

「すぐに行きます!」

私はそれだけ告げると慌てて受話器を置いて準備して病院へ向
かった。





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はぁ、はぁ、はぁ・・・

病院に到着したころ私は息切れ状態だった。
こんなに必死に走ったのはいつ以来だろう。

冬弥:「そんなに慌てなくてもいいのに。」

えっ!?

顔を上げた私の目の前に出会った頃と同じようにグレーのター
トルネックにジーンズのパンツ。
その上から肌にも負けない、真っ白い雪のようなコートを羽織
った冬弥が立っていた。

「冬弥ぁっ!」

私は冬弥に抱きついた。

冬弥:「心配かけてごめんね冬子ちゃん。」

あぁ・・・冬弥の声だ。

その声は不思議なくらい自然に私の心に染み込んでいく。

冬弥:「最期にきてくれてありがとう。」

「最期までずっと一緒にいるって約束したじゃない。」

冬弥:「そうだったね。」

「目が覚めたばかりで体・・・大丈夫なの?」

私は冬弥から体を離して言った。

冬弥:「うん。不思議なくらいに体が軽いんだ。」

そう言って小さくガッツポーズをとる。

「そうだ冬弥。これ持ってきたんだ。」

私はそう言って、あの日できなかった花火の入った袋を冬弥の
目の前にかざした。

出来るかどうか解らなかった。いやきっと出来ないだろうと思
っていたけど最期にと思い持ってきたのだ。

冬弥:「わぁ、花火だぁ。うん、やろう。」

久しぶりに見た私の大好きな冬弥のやわらかい笑顔。
嬉しさと悲しみが胸を駆け上ってくるのがわかる。
でも、今は駄目だ。
冬弥の笑顔を台無しにするから。

冬弥:「いいよね、川澄さん。」

病院の入り口に向き直って冬弥が声をかけた方角には川澄さん
が立っていた。

いや、川澄さんだけじゃなく、おそらく担当医であろう医師と
冬弥の両親も。

それが冬弥の最期がすくそこまで来ていることを表していた。

川澄:「そうね。病院の庭でなら許可するわ。
下には雪も積もってるし火事の心配もないだろうしね。」

冬弥:「だって、冬子ちゃん。お許しが出たよ。」

冬弥の父:「先生、川澄さん。息子たちを二人きりにさせてや
りたいのですが・・・。」

しばらく考えて医者が『わかりました。』と言った。

冬弥の父:「冬弥、火には十分気をつけるんだぞ。」

冬弥:「わかってるよ父さん。」

冬弥の父:「冬子さん、息子をお願いします。」

そう言って深々と私に頭を下げる。

私はまっすぐに冬弥の両親を見て『はい。』とはっきりと言
った。

川澄さんをはじめ、冬弥の両親、医者がこの場を離れようと
したその時、冬弥が声を発した。

冬弥:「父さん。母さん。川澄さん。先生・・・」

静かに四人が冬弥に向き直った。

冬弥:「今までありがとうございました。
僕は、幸せです。」

今度は冬弥が頭を深々と下げた。

医師:「・・・・・・私は何もできなったよ。」

川澄:「そ、そういうこと・・・い、言わないの冬弥くん。」

冬弥の母:「うぅ・・・うっく・・・」

冬弥の父:「悔いなく『生きる』ことができたか?」

冬弥:「うん。」

冬弥の父:「それならいい。」

私は、まだ泣けない。泣いちゃいけない。
それが冬弥の最期を託された私の責任だと思うから。

それから私と冬弥は、どちらともなく手をつないで病院の庭へ
と向かった。

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「はい、冬弥。」

私は袋から花火を取り出して冬弥に手渡した。

冬弥:「なんだか、ドキドキしてきたよ。」

花火を少し緊張した面持ちで手に持って、そんなことを言った
冬弥が微笑ましかった。

私は持ってきた蝋燭を雪の上にしっかりと固定して火を灯す。

蝋燭に灯った火が辺りの雪を赤々と照らす。

「さ、冬弥、火を花火につけて。」

冬弥:「う、うん。」

冬弥がそぉ〜っと花火の先を火に近づける。

「大丈夫、怖くないって。」

妙におどおどしている冬弥が可笑しかった。

しゅーーーーー・・・・

パチ・・・パチッ・・・

冬弥:「う、うわぁ!」

もう、危なっかしいなぁ。

私はそっと冬弥の手に自分の手を添える。

「大丈夫だから。」

冬弥:「ありがとう冬子ちゃん。」

手に持った花火が勢いよく火花を散らし始めた。

赤や青や緑と色とりどりの光が辺りの雪に反射して幻想的な世
界をつくりだす。

冬弥:「わぁ・・・」

本当に嬉しそうな笑顔で花火の光を見つめる冬弥。

冬弥:「綺麗だね冬子ちゃん。」

「うん。本当、綺麗・・・冬にやる花火もおつなものね。」

しばらくすると花火の勢いがなくなっていき、静かに消えた。

冬弥:「・・・・・・・・・。」

「どうしたの?」

消えた花火をぼぉっと見つめてる冬弥に私は問いかけた。

冬弥:「なんか・・・火が消えちゃうと途端に寂しくなるなぁ
って思ってさ。」

「はい、冬弥。」

私は新しい花火を袋から取り出し冬弥に手渡した。

「じゃあ、寂しさなんか感じないくらい花火をどんどんやろう
よ冬弥。」

冬弥:「うん。そうだね。」

私たちは次々と花火に火を灯す。

花火が鮮やかに周りの雪を染めていく。

まるで世界には私たち二人しかいなくて・・・

そして、ずっとこのままこの時が続くんじゃないかって・・・

そんな風に思えて、嬉しくて・・・悲しかった。

「はい、最期の一本だよ。」

最期の一本を冬弥に差し出す。

冬弥は、手を伸ばして花火を受け取る。

だけど、その花火は冬弥の手に握られることなく雪の上に静か
に落ちた。

冬弥:「あはは・・・落としちゃった。」

雪の上に落ちた花火を拾おうと手を伸ばした冬弥の体がくずれ
落ちる。

どさっ・・・

「冬弥ぁっ!!」

冬弥:「あはは・・・大丈夫だよ。
ただ、少しはしゃぎ過ぎて疲れただけだよ。」

そんな苦しそうな笑顔で言っても説得力ないよ。

「仕方ないなぁ、はい特別サービス。」

私はそう言って冬弥に膝枕をした。

冬弥:「な・・・なんか、照れくさい・・・ね。」

自分の胸元に手を添えて苦しそうに言葉を紡ぐ。

「冬弥・・・」

冬弥:「ん?」

「ありがとう。
大切な時間を私なんかのために使ってくれて。」

冬弥:「お礼なんて・・・いいよ。
ただの僕の自己満足・・・だよ。」

「ありがとう。
私のことずっと見ててくれて。」

冬弥:「冬子ちゃん?」

「私、冬弥のことが・・・」

冬弥:「勘違いだよ。」

冬弥の言葉が私の言葉を遮った。

冬弥:「勘違いだよ。
こんな特殊な状況の中で生まれたその感情をそうだと思い込ん
でるだけだよ。」

「違うよ。
私は、冬弥の体のことを知る前から・・・」

冬弥:「勘違いだよ。」

三度その言葉を冬弥が口にした。

「冬弥・・・」

これ以上を何を語っても冬弥には伝わない。

そう思った私は、ありったけの勇気と冬弥への想いを唇にのせ
て冬弥に重ねた。

冬弥の柔らかな唇を通して私の想いが伝わってくれることを祈
って。

「大好きだよ冬弥。」

そっと唇を離した私は冬弥にそう告げた。

冬弥:「ありがとう・・・ありがとう冬子ちゃん。」

冬弥:「僕も・・・大好きだよ。」

冬弥の瞳から一筋の涙が頬を伝って落ちた。

「最期の花火やろうか。」

冬弥:「うん。」

私は冬弥の体を抱き起こした。

冬弥の手に自分のそれを添えて花火を握り、火をつける。

しゅーーーーー・・・・

パチ・・・パチッ・・・

最期の花火に火が灯る。

そして色鮮やかに辺りを照らし出す。

冬弥:「綺麗・・・だね。」

「うん。」

冬弥:「冬子・・・ちゃん・・・」

「なに?」

冬弥:「僕・・・幸せ・・・だった・・・よ・・・」

どさぁっ・・・

最期の花火が消えたのと同時に冬弥の体が再び崩れ落ちた。

私は冬弥を抱き寄せた。

「私も・・・幸せだよ。」

私は今出来る最高の笑顔を冬弥に向けて言った。

冬弥:「あり・・・が・・・と・・・ぅ・・・」


冬弥の体から力が抜けいくのを感じる。

命の灯が静かに消えていくのを感じる。









そして、冬弥は眠りについた。









永い・・・永い・・・眠りに。








心がこんなに痛いのに。

こんなにも苦しいのに。

私の瞳から涙が流れることはなかった。




あぁ・・・そうなんだ・・・

人間て本当に悲しい時には涙なんて出ないんだ。



私はただ冬弥の体を抱きしめて蹲るしかできなかった。

真っ白な雪の中で・・・ただ蹲るしか。

きつく冬弥の体を抱きしめて・・・






















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あれから幾日過ぎたのだろう・・・

今日は何日で何曜日なんだろう・・・

今は朝だろうか・・・それとも夜?




どうでもいいか。


今日がいつであれ、今がなんであれ、冬弥がいない現実に変わ
りなどないのだから




新学期はとっくに始まっていた。


でも、私は学校に行く気になれなかった。
誰にも会いたくなかった。



そして今は独り部屋に篭りただ膝を抱えるだけの日々。



窓を閉め切った部屋には光など差し込む余地がなく漆黒に染ま
っている。


まるで私の心そのままに。



母が何かを言っても私の耳にその言葉が届くことはなかった。

涙ながらに打たれた頬が痛みを感じることもなかった。


私は、私の心は全ての事象を受け入れることはなかった。



バン!!!!


勢いよく部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。
そして、その誰かは今度は閉ざされた部屋の窓を全て開いてい
く。


目がくらむほどの光が漆黒の部屋に一斉に流れ込む。


眩い光の中に仁王立ちする人物が私を見据えて言葉を放った。

明美:「何やってんのよ冬子!!!」

明美:「なんで学校に来ないの?
なんで、こんなにやつれてるのよっ!!」

「明美・・・なんで泣いてるの?」

光に曝された私を見て明美が涙を流している。

明美:「なんで、なんで、こんなになってんのよぉ!!」

「なんで明美がここにいるの?」

冬弥がいないのに・・・

明美:「おばさんが心配して呼んでくれたのよ!
1週間以上も部屋に篭りっぱなしで食事も殆ど摂らないって、
なんとかしてくれって!!」

明美:「泣きながら私に電話してきたんだから。」

「そっ・・・」

私はそっけなく答えた。

もうどうでも良かった。

何もかもが。

明美:「言ってよ冬子。何があったのよ。」

私は焦点の合わない目で明美を見つめる。

「なんにもないよ・・・」

明美:「冬子!!」

「なんにもなくなっちゃったんだよ。」

明美:「冬・・・子?」

「冬弥がね・・・いなくなっただけ・・・」

明美:「それって冬子の彼氏だよね?」

「違うよ・・・」

「ただ・・・とても好きだった・・・大好きだった・・・」

明美:「ふられたの?」

私は頭をふった。

明美:「じゃ・・・」

「死んじゃった・・・」

その言葉を発した瞬間、冬弥が眠りについたあの時にさへ流れ
なかった涙が溢れ出た。

「死ん・・・じゃった。
大好きな冬弥が・・・死んじゃったんだ・・・」

「もう、もう・・・どこにもいない・・・いないの。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

私は冬弥が死んでから初めて泣いた。
大声をあげて。

もう止まらなかった。

涙も悲しみも。

押さえ込まれていた全ての想いが堰を切ったように溢れ出す。
涙とともに。

がばぁっ!!

明美がきつく私を抱きしめる。

明美:「こんなになるまで溜め込んで馬鹿だよ冬子は!」

「うぅ・・・明美ぃ・・・明美ぃ・・・」

明美:「今は、おもいっきり泣いていいから・・・」

「うぅ・・・うっく・・・」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

私の全てが泣いていた。冬弥のいない現実に。




その日、初めて私の心が冬弥の『死』を認めた。

たった一人の大好きだった人の死を。



そして、生涯忘れえぬ冬が私の心に刻みこまれ、『冬』という
季節が私にとって一番嫌いで、一番好きな季節となった。


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