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涙の理由
〜The translation of a tear〜
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男:「ねぇ、聞いてる?」

「・・・・・・・・・・・・。」

男:「ねぇってば。」

「・・・・・・・・・・・はぁ。」

男:「・・・さつき。」

「えっ!あ・・・ごめんなさい。何?」

私は急な彼の呼びかけに慌てて応えた。

彼は少し困った顔をしている。
それを見て、急にではなく先ほどからずっと呼びかけられてい
たことに私は気づいた。

「ごめんなさい。また・・・その・・・」

男:「また、彼のことを考えてたの?
たしか、英智くんだっけ?」

「えっと・・・」

ずばり言い当てられて言いよどんでしまう。

男:「何度も言うようだけど心配しすぎだよ。
彼だってまるっきりの子供じゃないんだから。」

「子供よ英智君は・・・」

男:「そう思ってるのはさつきだけだよ。
それに親戚の家に行ってるだけなんだろう?」

言葉を続けようとした私に彼はぴしゃりと言った。

男:「実の弟みたいに大切に思ってるのは知ってるけどさ、結
局は他人じゃないか。
そこまでさつきが心配する理由がわからないよ。」

「・・・・・・・・・。」

男:「少しは目の前にいる俺のことを考えてくれてもいいんじ
ゃないか?
話も聞いてくれない彼女に目の前でため息を吐かれる男の気持
ちをさ。」

「ごめんなさい。」

彼の目は明らかに私を非難していた。
でも、私のほうが一方的に悪いのだから仕方がない。

彼の名前は『高尾 昇(たかお のぼる)』。
年齢は私より一つ上(正確には1年と7ヶ月)で25歳。
職業は世間の事情に疎い私でもしっている大手の商社マン。
友人の紹介で付き合いだして1年半になる。

私、『守宮 さつき(もりみや さつき)』の彼氏である。

高尾:「・・・出よう。」

気まずい雰囲気の中、私たちは店を出た。


;********

「ふぅ、いいお湯だった・・・」

誰もいない部屋に虚しく声が響く。

結局、彼とは気まずい雰囲気のまま別れた。
私は、『送っていくよ』と言った彼の言葉を丁重に断り、一人
で家路についた。

お風呂からあがった私はベットに横になり天井を見上げる。

「英智くん・・・」

自然と口を吐く名前。
それに気づいた私は苦笑した。

きっと彼の前でも無意識に英智くんの名前を口にしているんだ
ろうなぁ。

自分の彼女が話も聞いてくれず、挙句に別の男の名前を口にす
る。これじゃ怒って当然よね。

最初は優しく『心配しなくても大丈夫だよ。』と励ましてくれ
ていた。でもだんだんそれは呆れに変わり、今では苛立ちに変
わっている。

彼が悪いわけではない。その反応は当然のもの。
それは充分に理解している。
むしろ感謝しているくらいだ。
彼は根気強くこんな私の傍にいてくれているのだから。

でも、私の心から英智くんへの心配がなくなることはなく、日
増しに大きくなっていっている。

私がこれほどまでに心配している彼。
名前は『須賀 英智(すが えいち)』。

年齢は先々月(12月)の10日で16歳になったばかりの少
年である。

英智くんと初めて会ったのは私がフランスの留学から帰ってき
た時だから、6年程前。
私が18歳で英智くんはまだ10歳だった。

あれ?出会ったのが夏だったから二人とも誕生日前。
ってことは私が17歳で英智君は9歳が正しいのかな?

子供の頃から知っている英智くんは、彼の言うように私にとっ
ては実の弟のような存在なんだと思う。
一人っ子である私には本当に可愛い存在なのは確かだ。
だからこれほどまでに心配してしまうのだろう。

その英智くんが姿を消して4ヶ月以上経つ。

昨年、彼は大切な女(ひと)を事故でなくしてしまっている。
英智くん自身も1ヶ月の入院が必要となる大怪我を負った。

そして退院してすぐに英智くんは姿を消した。

私に何も告げずに。

英智くんは彼女・・・真夏ちゃんが死んだのを自分の責任だと
強く思っている。 だから私は万が一を考えずにはいられなかった。
それほどまでに英智くんは自分自身を強く責め立てていた。

おばさん(英智くんの母親)に訊いてみたら自分を見つめ直す
ために遠い親戚の家にしばらく厄介になることにしたんだと言
っていたので少し安心したのだけれど。

ひと月経ってもふた月経っても英智くんが帰ってくることはな
かったし、連絡がくることもなかった。

「どこで何やってるのよ・・・英智くん・・・」

その夜、私は英智くんの夢を見た。

英智くんは独り膝を抱えて泣いていた。

何もできない私は泣きながら英智くんを見つめることしかでき
なかった。

そんな切なくて悲しい夢だった。

;*********

女:「では、二人の再会とさつきの誕生日に乾杯!」

さつき:「乾杯!」

あわせたグラスがチンと透き通るような綺麗な音を奏でた。

女:「半年ぶりだねさつき。元気だった?」

さつき:「うん。夢月こそ元気だったの?」

彼女の名前は『当麻 夢月(とうま むつき)』。
私の古い友人である。

私は中学を卒業すると高校へ進学せずに製菓の専門学校へと進
んだ。以前から夢だったパティシエの勉強を本格的に1日でも
早く。そう思っての決断だった。

最初は猛反対していた両親も私の真剣な態度を見て、渋々では
あるが承諾してくれた。

その製菓の学校で知り合ったのが彼女だった。

私たちはすぐに意気投合しお互いをライバルとして共に頑張っ
てきた。

今回、私の24歳の誕生祝も兼ねて久しぶりに会おうというこ
とになったのだ。

「夢月は今ヨールトンホテルに勤めてるんだったよね。」

ヨールトンホテルと言えば誰でも知っている超一流のホテルで
ある。彼女はそこで異例の出世を果たし、チーフパティシエと
して頑張っている。

夢月:「そうよ。毎日大変よ。」

そう言いながらも満足げな笑顔を浮かべている。

夢月:「さつきは?」

「私?・・・・・・うん順調だよ。」

夢月:「小さな子供からお年寄りまで誰でも気軽に楽しめて幸
せになる。そんなお菓子を作りたい。」

「・・・うん。」

それが私の夢だった。

夢月:「やっぱり元気ないね。
高尾っちに聞いたとおりだ。」

「えっ?」

どうして急に昇さんの名前が出てきたのか私には理解できなか
った。
確かに私に昇さんを紹介したのは夢月だから共通の知り合いで
はあるのだけれど。

夢月:「高尾っち言ってたよ、会っててもいつもさつきは上の
空だって。」

そんなこと夢月に言ってたんだ。

夢月:「原因は、やっぱり例の英智くん?」

私は何も言えなかった。

夢月:「やれやれ。
まさかさつきがショタコンだったなんて意外だわ。」

ショ・・・

ショタコン!?私が?

「な、なに言ってるのよ!」

私のその声に一瞬店内が静まりかえる。
無意識に大きな声を出してしまったらしい。

私は照れながら周りに『すいません』とお辞儀をしてからコホ
ンと咳払いをしてから夢月に向き直った。

「違います。」

そうキッパリ言った。

夢月:「でしょうね。長い付き合いだけどさつきにそういう趣
味があるなんて一度も感じたことないものね。」

悪戯っぽく夢月は笑った。

私はグラスのお酒に口をつけ飲み干した。

「すいません、おかわり。」

店員は礼儀正しく『かしこまりました。』と言って空のグラス
をさげ、すぐに新しいグラスを持ってきた。

夢月:「じゃあ、英智くんが特別なんだ。」

「妙に絡むわね。何が言いたいの?」

夢月が何を言いたいのか解らなかった。
お酒のせいかもしれない、少し苛立ちを感じる。

「夢月だって知ってるでしょ?英智くんと私は昔からの知り合
いで本当の弟のように思ってるって。
それに今の状況だって夢月知ってるじゃない。」

落ち着いて言葉を選び紡いだつもりだったけど、どこかキツイ
口調になっていたのかもしれない。
夢月は少し驚いていた。

「・・・ごめん。」

夢月:「ううん。」

しばらく静寂が二人を包んだ。

「心配なんだよ。」

ぽつりと言った。

それは偽りのない私の気持ちだった。

夢月:「それもあるんだろうね。でも・・・」

「でも?」

夢月:「さつきの顔には心配って言うより『さみしい』って書
いてあるよ。」

「えっ?」

夢月の口から予想もしなかった言葉が出てきたものだから私は
驚いた。

さみしいの?私?

英智くんがいないから?

夢月:「気づいてないだけで皆いろんな見えないものに縛られ
て『本当』を見失ってるってことあるよ。」

妙な力強さを感じる口調で夢月は言った。

夢月:「見失ってるってのとはちょっと違うかな・・・。
見ないようにしているってのが一番しっくりくるかな。」

次の言葉は誰に言うでもなく、独り言のように呟いた。

そして私をまっすぐに見つめて・・・

夢月:「さつきも・・・そして私もね。」

そう言った。

夢月は自嘲気味に笑ってグラスのお酒を一気に飲み干した。

;**********

ガタン・・・ゴトン・・・ガタン・・・ゴトン・・・

ふう・・・少し呑みすぎたのかもしれない。
私は帰りの電車で座席に深く腰をかけて目を瞑る。

あれから二人は気を取り直して呑みなおした。

二人の近況報告など話題には事欠かなかった。
久しぶり楽しいと言える時間だったと思う。

夢月:『じゃあ、英智くんが特別なんだ。』

ふと夢月の言葉がリフレインする。

特別・・・か。

確かに私にとって英智くんは特別なのかもしれない。

生前、英智くんの恋人である真夏ちゃんが言っていた言葉を思
い出す。

真夏:『その時に英智くんは、さつきさんは自分を救ってくれ
た恩人だって言ってました。
感謝してもし足りないって。』

確かあの時は英智くん、真夏ちゃん、あやちゃんが私の家にお
菓子作りの勉強にきたときだった。
もっとも英智くんは付き添いだけど。

お菓子作りが一段落してリビングに戻ってみると英智くんが眠
っていて、ついでだから昔話(英智くんとの出会い)をしてた
んだった。

当時、英智くんは虐められていて・・・そんな時に私たちは出
会った。そういう話。

確かその言葉は、その時に聞いたものだった。
そんな風に思ってくれていることが純粋に嬉しかった。

でも、それを言うなら英智くんだって私を救ってくれた。
それどころか導いてくれた。
私が目指す夢を掴むための道へと。

感謝してもしたりないのは寧ろ私の方だった。

英智くんと出会った当時、私はフランスからの留学から帰って
きて就職活動に励んでいた。

色々なお菓子の店を回ったっけ。
でも、私の夢である『小さな子供からお年寄りまで誰でも気軽
に楽しめて幸せになる』そんな優しい味のするお菓子を作る店
は中々見つからなかった。

夢月と同じように大手への推薦がないわけではなかった。
でも、私が目指すものはそこには無かった。
だから自分の足と舌で探すことにしたのだ。

そんな時に見つけたのが『タルトの森』だった。
私の目指す味がそこにあったのだ。

私は店長に雇ってもらえるよう頼みこんだ。
私の根気に負けた店長はある条件を出した。
その条件をクリアできれば雇うと約束してくれたのだ。

その条件とは『今の私にできる最高のお菓子』を作り、その味
を店長に認めてもらうことだった。

期限は3ヶ月。

伊達にフランス留学をしてきたわけではない。
正直、自分の腕には自身があった。
だから3ヶ月は長すぎると思っていた。

私は3ヶ月の間は『タルトの森』で雑用のアルバイトをしなが
ら店長に認めてもらうためのお菓子作りをすることとなった。

私は直ぐに今もてる全ての技術を駆使してお菓子を作った。
これほどのものは簡単に作れるものではない。
そう自分でも思えるほどの出来だった。

でも、結果は不合格だった。

何がいけなかったのだろう?
それから私は何度も何度もお菓子を作った。

でも、結果は全て不合格だった。

気づいたときには既に1ヶ月が経過していた。

私は焦っていた。
こんなに手こずるとは正直思ってもいなかったから。

何がいけないのかいくら考えても解らなかった。
それが余計に焦りを生む。悪循環だった。

そんな時に英智くんに出会った。
最初は素っ気無かった英智くんも、ある日を境に私になつくよ
うになってくれた。
次第に私たちは仲良しになった。

そしてあっという間に2ヶ月半が経過した。
期限まであと2週間。

相変わらず合格の兆しすら見えない状態だった。
本当にどうすればいいかわからなかった。

私は半ば諦めていた。
そして息抜きと称して英智くんを家に招待した。
息抜きというより現実逃避だったのかもしれない。

でも実際、英智くんといると楽しかったのは本当だった。
子供らしからぬ言動が背伸びしてますって感じで可愛かった。

「はい、どうぞ。」

英智:「ありがとう。」

ジュースとお菓子を持ってきた私に少し緊張した面持ちでお礼
をいった英智くんがとても可愛らしくて思わず笑みがこぼれそ
うになる。

英智:「いつものお菓子と違うんだね。」

「あぁ、いつも英智くんに食べてもらってるのはねテスト用の
お菓子なのよ。」

英智:「モルモット?」

「あはは・・・違うわよ。試食って言って欲しいなぁ。」

本当は不合格をもらったお菓子だった。
捨てるのももったいないので英智くんに食べてもらっていたの
は内緒にしておいた方がいいかもしれない。

英智:「今日のはテスト用じゃないの?」

「そうよ。これは今日英智くんがくるから作ったの。
言わば英智くん専用のお菓子かな。」

それは昨晩、今日くる英智くんのために作ったお菓子だった。
作ってる時は英智くんが喜ぶ顔想像しながら作ったっけ。
不合格になったお菓子の後片付けをしてもらってる罪滅ぼしも
少し兼ねてるんだけどね。

久しぶりに楽しんで作ったお菓子だった。

はむっ。

むしゃむしゃ・・・

小さな口で一生懸命お菓子を頬張る姿を見てると、やっぱり子
供だなぁと思う。
普段、大人びたことを言うものだから忘れがちになるけど。

「おいしい?」

英智:「うん。」

良かった、喜んでくれて。心からそう思う。

英智:「今まで食べた中で一番おいしいよ。」

英智くんは本当に美味しそうな顔で言った。

「大げさだなぁ英智くんは。
いつも試食してもらってたお菓子に比べれば全然でしょ。」

今回のお菓子は英智くんのために一生懸命作ったものだけど、
テスト用に作っているお菓子のように凝ったものではなく素朴
なものだった。

テスト用のお菓子には工夫を凝らし持てる技術の全てを注いで
いる。家庭用のお菓子とはおのずとレベルが違ってくる。
本来比べるものではないのだろうけど。

英智:「ううん。今まで一番だよ。」

英智くんはもう一度言った。

「テスト用のお菓子より?」

英智:「うん。ずぅっと美味しいよ。」

ずぅっと?

英智くんはお世辞の言える子供ではないことは知っている。
だからきっと本心なのだろう。

あぁ、そうか。

きっとテスト用のお菓子は子供向けではなかったのかもしれな
い。だらか英智くんの口にはもうひとつだったのかも・・・

英智:「テスト用のお菓子はね凄くキレイで凄く美味しいよ。
本当に凄いなっていつも思うもの。」

英智:「でもね今日のお菓子は、何て言うのかな・・・」

そして英智くんはう〜ん、う〜んとしっくりくる言葉を探すよ
うに頭を傾けて唸りだした。

英智:「あっ!」

しばらく経って、英智くんは言葉を見つけたようだった。

英智:「いつものお菓子が『凄いお菓子』で、今日のお菓子は
『優しい気持ちのお菓子』。」

えっ・・・

英智:「うーんとね、今日のお菓子は凄く幸せな気持ちになる
お菓子だよ。」

その言葉を聞いた瞬間、全身に電気が走ったような衝撃を覚え
た。

そして涙が溢れそうになった。

私がこの道を選んだのは、どうしてだったのか。
何を目指していたのか。

『小さな子供からお年寄りまで誰でも気軽に楽しめて幸せにな
る』そんな優しい味のするお菓子を作るのが夢だったはずだ。

それなのに私は合格するために技術的なことばかりに拘って、
一番大切な想いを忘れていた。

店長が言った『今の私にできる最高のお菓子』と言うのは技術
の詰まったものじゃなくて、想いの詰まったお菓子のことだっ
たんだ。

それを目の前にいる小さな友達が教えてくれた。
思い出させてくれた。

この日は私にとって生涯忘れえぬ日となり、英智くんの言葉は
生涯の宝物となった。

1週間後、私は溢れんばかりの想いを詰め込んだお菓子を作り
あげ、最後の試験に挑んだ。

店長:「やっと気付いたね。」

店長:「私が見たかったのは守宮くんの技術じゃなくて想いだ
ったんだよ。
技術的に申し分ないのは経歴で充分解っていたからね。」

店長:「今日のこのお菓子は最高に美味しいよ。」

「・・・・・・・・・・・・。」

緊張した面持ちで店長を見つめる私。

すると店長はにっこりと優しく笑って言った。

店長:「うん。合格だ。」

「あ、ありがとうございます。」

飛び上がって叫びたい衝動をぐっと堪える。
溢れ出すこの喜びを真っ先に伝えたい人がいるから。

英智くんにこのことを伝えるまでは全身で喜ぶのはもう少し我
慢しよう。

店長:「本当にいい味だよ。
誰か大切な人のことでも想って作ったのかな?」

「えっと・・・その・・・はい。」

この最後の試験に向けてのお菓子を作っているとき、『合格』
のことではなく英智くんのことを考えて作っていた。
大切な想いを思い出させてくれた英智くんを想いながら。

店長:「おやおや。」

店長:「それでは春から正式によろしくお願いしますね守宮く
ん。」

「はい、宜しくお願いします。」


;************

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。
・ ガタン・・・ゴトン・・・ガタン・・・ゴトン・・・

「間もなくは柊坂、柊坂〜。」

社内アナウンスの声で私は現実に引き戻された。
昔のことを思い返しているうちに眠ってしまったらしい。

危うく乗り過ごすところだった。

改札を抜け駅の東側を見る。

柊坂の駅の東側に英智くんの家がある。
ちなみに私の家は反対の西側に位置している。

「まだ、帰ってきてないんだろうなぁ。」

はぁっと吐いたため息が白い。

「うぅ・・・寒い。」

お酒と電車の暖房で暖まっていた体が急激に冷えていくのを感
じる。

「この分だと雪でも降りそうね。」

私は北風が吹く中、風邪をひかないようにと足早に家へと向か
った。

「ん?なんだろう?」

玄関の郵便受けに何か入っている。

綺麗に包装された小さな箱が入っていた。
その見た目からプレゼントだろうと予想がつく。

「昇さんからかな?」

私は家に入ると、まずストーブに火を灯した。

そして私はプレゼントをあけてみることにした。

今日2月14日の私の誕生日。昇さんは出張で海外に行ってい
る。だから誕生日プレゼントだけでも・・・と思って贈ってき
たのかもしれない。

「昇さんらしいなぁ・・・」

私の誕生日はバレンタインでもある。今年は誰にもあげること
がなかった。

昇さんは海外出張だし、英智くんはいないし。

丁寧に包装紙を剥がし、箱を開けるとシンプルな銀のペンダン
トが入っていた。

「わぁ・・・」

それは、天使の羽を模したような可愛らしいデザインだった。
真ん中には2月の誕生石である小さなアメジストがあしらわれ
ている。

私はこういう可愛らしいデザインが結構好きだったので凄く嬉
しかった。

「でも、普段の昇さんらしからぬチョイスね。」

何度か昇さんからプレゼントをもらったことがあるけれど、ど
れもシックで大人っぽいものだった。

「夢月にでも訊いたのかな?」

ふと、カードが同封されていることに気付く。

そっとカードを開いてみる。

そこには見慣れた、ちょっと下手っぴな文字でこう綴られてい
た。










『誕生日おめでとう。

             From英智』

・・・と。













ポタリと雫が落ちる。

「・・・・・・英智・・・・・く・・・ん・・・」

止め処なく涙が溢れてくる。

その時に私は始めて気がついた。

この流れ落ちる涙の理由に。

夢月が言ったとおりだった。

私は寂しいんだ。

英智くんがいなくて寂しいんだ。

「寂しいよ・・・英智くん・・・」

自然に吐いたその言葉は、紛れも無く私の本心だった。

ペンダントを握り締めて私は涙を流す。

嬉しさと寂しさが綯い交ぜになったような涙を。

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「行ってきます。」

誰もいない部屋に元気に言って私は今日も『タルトの森』へと
向かう。

昨日までとは少し、ほんの少しだけ違う自分で。

空を見上げると雲ひとつない快晴だった。

朝の光を浴びて私の胸の天使の羽が光る。

「今日も頑張らないと。」

私は元気よく歩き出した。












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〜あとがき〜
はい、というわけでさつき誕生祝SS書いてみました。
時期的には『真夏』〜『真夏の痕』の間のお話です。
いつもそうなんですけど、最初に頭に浮かぶイメージと変わっ
ちゃうんですよね。
完成したものが。
今回はなるべく当初のイメージどおりに書くように努めました
けど。
イマイチイメージどおりに綺麗にまとめられない自分の文才の
なさが嫌になります。

感想などいただければ幸いです。
ではでは、これにて失礼します。

-2005.01.16-


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